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  3. これからのメンタルヘルス対策の展開 第1回

これからのメンタルヘルス対策の展開

これからのメンタルヘルス対策の展開 第1回
「新しいメンタルヘルス対策を推進する理由」

㈱健康企業 代表・医師 亀田高志

1. はじめに~貴社の人材は充足していますか?

企業、自治体、団体等でのコンサルティング、相談対応、講演や研修の場を通じて、人事総務部門の方々から伺うことが多い悩み事が人材の不足です。それには主に次のような背景要因があると感じています。

  • 少子化の影響で若い人材の採用が難しく、折角入社してもすぐに退職してしまうために、定着が難しい
  • 年齢層ごとの人員構成がいびつで50歳以上が多数となりつつあり、さらに60歳を超えた社員が増えてきた
  • 女性活躍社会と言いながら、女性特有の健康問題の他に、妊娠から出産、育児あるいは介護といったライフイベントのために退職したり、雇用契約を再考したりせざるを得ない社員が少なくない

地方都市や中小企業のみならず、首都圏や関西の大手企業でも、若い人材が採用できないことや、容易く転職してしまうことに悩むところが増えてきました。シニア層では、心身の病気や労災事故の増加以外に、一旦定年を迎えて、報酬が低下するためモチベーションが下がってしまう人の増加に困惑する企業等の関係者も少なくありません。女性活躍を支援するという名目のヘルステックを「フェムテック」と呼び好事例が紹介されて、サービスが広がっている一方で、強いストレスから期待されるキャリア形成ができない働く女性が潜在的にいます。こうした傾向から、年齢層毎の人数や男女比を良く知る人事総務の関係者は、5年後、10年後には事業を推進する人材が枯渇することを予測し、危機感を訴えるようになっています。

他方、厚生労働省が策定し、今年4月からスタートした第14次労働災害防止計画において、“1 計画のねらい (1)計画が目指す社会”の中では、「労働者の安全衛生対策は事業者の責務であることが前提であるが、さらに「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革の促進が掲げられ、事業者の経営戦略の観点からもその重要性が増してきており、労働者の安全衛生対策が人材確保の観点からもプラスになることが知られ始めている。」と強調されています。この背景にあるのも、少子高齢化による労働力人口の減少があると考えられるのです。

2. 人材の不足と関係の深いストレスとメンタルヘルス

これらの人材の不足、さらには枯渇が起きつつある背景要因には、職場のストレスや働く人のメンタルヘルスとの関係が深いのです。例えば、若い世代、シニア層、女性にそれぞれメンタルヘルス不調のリスクがある状況を次のような事例から理解することができます。

四角ある若手の場合

  • 新型コロナウイルス感染症(以降、新型コロナ)の流行拡大によって、2020年3月に緊急事態宣言が発出されて以降、大学生活は在宅での学習が中心となってしまった。楽しみにしていた部活動や同好会への参加、学校行事の開催は不可能となり、スマホやタブレットを用いた動画の視聴やSNS内での限られた交流しかできず、孤独、孤立に苛まれてきた。大学の講義のみならず、就活、就職後もオンラインでの対応が主だった。新型コロナの取扱いが5類になる前後から外出しやすくなったが、出社も強制されるようになった。ところが職場では上司、先輩に慣れることができず、通勤や職場の環境の中でも対人恐怖の感覚が強い。

四角あるシニア層の場合

  • バブル期に入社後、仕事、職場を最優先で努力してきた。そのため家庭やプライベートを犠牲にすることがしばしばだった。ある程度の昇進や昇給は得られたが、同期入社の中では平均以下だと自覚していた。新型コロナが始まってから、役職定年を迎えて、モチベ―ションの素だった職位がなくなり、年下の上司に仕える形になった。これまでの部下、後輩の対応がよそよそしく感じられてつらい。60歳が目前となり、定年退職後の報酬が現在の三分の一に留まることが分かった。グループ会社への異動、転籍が見えてきたところ、夫婦仲が最悪の状態になり、家庭にも居場所がない。

四角ある女性の場合

  • 総合職採用として、転勤も承知の上、希望の大手企業に就職できた。ところが学生時代から感じていた月経痛が強く感じられるようになり、並行して起きる強い頭痛が耐え難い。一方で常にアウトプットを求められる中、月経痛のことを男性の上司や先輩たちに知られないように我慢するのが辛かった。新型コロナが流行下だったが、幸い、学生時代から付き合ってきた彼と入籍し、一緒に暮らし始めた。お互いに子供が欲しいと思っていて、再開された飲み会の場で口を滑らせてしまったところ、プロジェクトを外された。その次の週から女性の先輩社員の態度がよそよそしくなってきた。

職場のメンタルヘルス対策を推進する手法として、厚生労働省は4つのケアを推奨しています。働く人自らが気を付けるセルフケア、管理監督者が部下、後輩をケアするラインによるケア、産業医、保健師等の専門家がかかわる事業場内資源によるケア、各地域にある相談窓口やEAPと呼ばれるメンタルヘルス相談機関による事業場外資源によるケアです。あるいはストレスチェック制度にお金と時間を費やしていることでしょう。しかし、これらを推進したとしても、例示した事例の問題や厳しい状況は必ずしも、また容易には解消しないのではないでしょうか。

3. これからのメンタルヘルス対策に必要な視点と推進する環境づくり

 読者の皆さんにとって、ストレス要因とストレス反応との関係は自明のことと思います。これらの事例で想像される3つのストレス反応は、怒り、抑うつや不安といった感情面、心理的な面の反応、不眠や感じられる疼痛の増強、腹痛、下痢といった身体面の反応、それから怠業、不就労、退職、転職といった行動面の反応です。

心理的な反応が高じてメンタルヘルス不調になった場合には、休業、休職に至る可能性が高く、それは容易には完治しません。また、身体的な反応が強いようであれば、通院、休業の繰り返しといった事態と業務への集中の困難も予想されます。ここに挙げた事例のうち、若手や女性の事例では退職を選ぶ可能性もあり、シニア層は怠業につながる場合も否定できません。これらは上述の人材の不足や枯渇に拍車をかける状況をもたらします。

では、こうした事案をどのように防ぎ、具体的な対策を行うのがよいのでしょうか。ストレスチェック、定期健康診断、専門家による健康相談を実行しても、事態を把握ができない可能性が残ります。また産業保健サービスだけでは、とても解消しない複数の問題が存在します。

こうした状況を改善していく第一のステップとしては、経営層の方々に人材の不足から枯渇が大きな問題になっていることを説明し、納得を得ることが重要です。

厚生労働省の推奨している「心の健康づくり計画の策定と運用」では、他の労働安全衛生管理対策と同様に、事業場トップの方針の策定、表明と周知が最初に出てきます。しかし、それが形式的である印象が現場では否めません。国内でも注目されている労働安全衛生マネジメントシステムの規格であるISO45001では、リーダーシップ及びコミットメントが具体的な計画の前に強調されています。ISO45001のリーダーシップ及びコミットメントでは、欧米では説明責任と結果責任と解釈されます。担当者が文案を作り、それを確認して、立場上公表するだけでないのです。ところが、体力、気力があふれているからこそ、トップの立場に立つ方々には、そもそもメンタルヘルスの問題はピンと来ないことが多いものです。

そこで充分に理解し、対策を遂行していく当事者となって頂くために、意思決定を行うトップには、職責上は常に考えておられるはずの4つの経営資源、つまり「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」のうち、事業を支える「ヒト=人財」の問題が生じやすい状況にあること、それが待ったなしであることを伝えて、問題意識を共有頂くことが重要です。さらに、心の健康づくり計画を円滑に運営するための、費用(コスト)、人員と従事する時間等に関する同意と承認を頂くことが大切です。

今回、説明したような事例の問題を軽減するためには、事業場内産業保健スタッフという立場からのこれまでのアプローチでは、不十分であろうと考えています。それよりも人事総務等の部門と問題意識を共有して連携し、各々の立場を統合して対応を進めていくことが必要です。次回は、その際の具体的な対応と工夫を第二のステップとして、ご紹介したいと思います。



これからのメンタルヘルス対策の展開

職場のハラスメント対策に活かすメンタルヘルス実務対応

第1回  
   

これからのメンタルヘルス対策の展開

第1回 第2回
第3回 第4回

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